桜花舞うとき、きみを想う



結婚指輪を買うためには、働かなくてはいけない。

働くためには、兵隊に取られてはいけない。

兵隊に取られて、きみを悲しませることは出来ない。

昨夜、きみの涙を見て誓った。



ぼくの使命は、妻の笑顔を守ることだ。



「礼二さん、わたしの手に何か付いてる?」

きみの声に、ぼくは我に返った。

「あ、ああ、何でもないよ」

つい考え込んでいるうちに、食卓の上を動き回るきみの手を、目が追っていたらしい。

ぼくはお椀を手に取って、熱い味噌汁をすすった。

(やれやれ。朝っぱらから深刻に考えたりするもんじゃないな)