桜花舞うとき、きみを想う



翌朝、目覚めたときから、きみにどんな顔で挨拶をしようかと気が気でなかったぼくに対し、きみはまったく普段通りだった。

居間に入ると、食卓にはもう朝食の用意があった。

「おはよう、礼二さん」

「おはよう」

きみは白い前掛けを着けて、盆を手に味噌汁を運んでいるところだった。

ぼくが座ると、その前にお椀を置いた。



お椀を持ったきみの左手の薬指には、細い銀の指輪が光っている。

それは、きみの指にはめられる前は、ぼくの母の薬指にあった指輪だ。

急な結婚で指輪を準備できなかったぼくに、父は新しい結婚指輪を買ってやると言ってくれた。

けれどぼくは、いつか自分で買います、と断った。

『就職したら、給金を貯めて、きっと綺麗な指輪を買うよ』

と言ったら、きみは嬉しそうに笑っていた。