こうして、静かに風に吹かれていると、あの神社を思い出す。
広い境内で、天気がいい日には竹とんぼを飛ばし、正月には凧揚げをした。
それから、雪の日には雪だるまを一緒に作った。
きみに求婚したのも、あそこだった。
きみは、ぼくが兵隊になるんだと勘違いして泣いた。
ぼくは、馬鹿だな、と笑ったけれど、まさかこんな日が来るとは、誰よりもぼく自身が、夢にも思わなかったのだ。
数え切れないほどたくさんの、かけがえのない思い出が詰まった神社があるあの町で、ぼくらはいつも一緒だった。
傍から見れば、平凡なふたりだった。
けれど、きみにとってぼくがきっとそうであったように、ぼくにとってきみは特別で、何者もきみの代わりなどできやしない唯一無二の存在だった。
ぼくらの人生には劇的といえるようなことなど何もなく、生きることに必死になるうちに、毎日が淡々と過ぎていき、それが幸せだったかと問われると、そうでないときもあったと答えるだろう。
ただどれほど辛い出来事でさえも、きみの存在がある、それだけで乗り越えられた。
疑いなく、きみはぼくの命そのものだった。


