山のほうから黒鶫の声が聞こえる。
もうすぐ夏だ。
縁側で家族揃って西瓜を食べたあの日が懐かしい。
あの夜、きみはぼくに、兵隊さんにならないでと言って泣いた。
ぼくの元に召集令状が届いたのは、それからすぐのことで、出征の日のきみの涙が、今も目に焼きついている。
土を踏みしめる靴裏の感触が変わって、下を見た。
いつの間にか足元に草が生えている場所まで歩いていたようで、その鮮やかな緑のところどころに、小さな桃色の花が咲いているのを見た。
まるできみのように小さくて可憐で、押し花にしてその姿を永遠のものにしてしまいたかった。
けれど、しゃがんで花に手を伸ばし、その根元に触れたとき、ふわりと風が吹いてぼくは手を止めた。
この花にも命がある。
このささやかで美しい花の命を、どうしてぼくが勝手に摘み取ることができようか。
ぼくはそのまま草の上に仰向けに寝転がり、目を閉じた。


