桜花舞うとき、きみを想う



「いけないよ、こんなこと」

ゆっくりと唇を離し、ぼくはできるだけ優しく言った。

素子さんは泣いていた。

「ぼくは明日、出撃します。任務のことはぼくの口からは言えないけれど、勘のいいあなたのことだから、気付いていてこんなことをしたのだと思う。でもね、素子さん」

ぼくは、素子さんの頬を伝う涙を、そっと拭った。

「あなたのことを生涯にかけて守ってくれる人が、必ずいます。ぼくのことなど、忘れてしまったほうがいいんだ」

幼い子供のように首を横に振り続ける素子さんを、ぼくは最後に一度だけ、ぎゅうと抱き締めて、その部屋を出た。



部屋を出た瞬間、ぼくの目から大粒の涙が溢れ出た。

ぼくはずっと素子さんを兄妹のように思っていて、だから、こんな行動をさせてしまうまで彼女の気持ちに気付けなかった自分を、ただ恥じた。

そして、自分の体を両腕で抱き締めた。

まだ素子さんの温もりと感触が残っていた。

それは、きみを抱いたときとよく似ていた。