「鹿児島のお茶っておいしいでしょう。わたし大好きなの。慣れない暮らしだけれど、これをいただけるっていうだけで、鹿児島に来て良かったと思えるわ」
素子さんの部屋に向かい合って座り、慣れた手つきで茶を注ぐ素子さんを、ぼくは黙って見ていた。
「どうぞ」
差し出された熱い湯呑みを鼻に近づけると、すっきりとした緑茶の香りが、疲れた体にやさしく染み渡った。
そしてその香りは、きみがよく、学校から帰ったぼくにこうして温かいお茶を淹れてくれた記憶を呼び起こした。
あれからぼくらの人生は、予想しない方向へと転換してしまった。
「妻も、こうしてよくお茶を淹れてくれました」
ぽつりと呟くと、素子さんは優しく微笑んだ。
「そういえば礼二さん、奥さまのお写真があるのよね。お父さまが言っていたわ。見せてくださる」
ぼくは少し気恥ずかしかったが、胸ポケットにしまってある写真を取り出し、素子さんに見せた。
「わあ、かわいらしい人」
「ありがとう。あなたのお父上も、そう言ってくれました」
素子さんは感嘆の声をあげ、ぼくはきみを褒められたことが嬉しくて、何だか照れ臭かった。


