桜花舞うとき、きみを想う



どうして、他のしっかり練習を積んだ人たちを差し置いて、経験不足の自分を選んだのですか。

その言葉が喉まで出かかったところに、将官に続いて清水さんが食堂へ入って来た。

「中園、いたのか」

「はい、今日は配膳当番であります」

「おお、きみが中園か。なかなか優秀だと聞いているよ。しっかり働いてくれると期待している」

清水さんの言葉で、将官は、ぼくが件の相手だと理解したらしく、湯のみを受け取りながら、馴れ馴れしくぼくの肩を叩いた。

ぼくが力なく敬礼をすると、、将官はうまそうにぐいと茶を飲み干し、颯爽と出て行った。



「……実は、さっきの会議室での会話が外に漏れていて、聞いてしまいました」

ふたり取り残された静かな食堂で、ぼくは、ぽつりと呟いた。

「なぜ皆、自分のような得体の知れない人間に、期待をかけるのでしょうか」

志願を尋ねた少佐も、さっきの将官も、ぼくのことなどひとつも知りやしないのに。

「すまない。止めたが、上の決定をどうすることも出来なかった」

清水さんは、ぼくの問いには答えず、頭を下げた。