桜花舞うとき、きみを想う



この基地にいる人員の中で、ぼくは明らかな新参者であり、意志確認こそされたものの、操縦技術自体は素人同然だった。

そんなぼくが、なぜ。

食堂で配膳準備をしながら、いくら考えても答えは出て来なかった。

(だって皆言っていたじゃないか、特攻兵には休暇が与えられ、家族との面会が許されるって)

今命令が下ったら、出撃は数日後。

東京へ帰る時間など取れるはずがない。



「お茶をもらえるかな」

突然の声に顔をあげると、すぐ目の前に会ったことのない将官が立っていた。

ぼくはその声に、はっとした。

会議室で、清水さんと言い合っていた人に違いなかった。

丁寧で優しい言葉遣いとは裏腹の、冷徹な命令を下すことに少しの躊躇も見せない。

扉の外で聞いたときに想像した姿と目の前にいる隙のない将官の立ち姿は、あまりにも合致しすぎていた。