桜花舞うとき、きみを想う



「そんな馬鹿げた話があるものか!志願の意志を問うただけで、彼にはまだ早すぎるどころか、家族にだって会えていないんだ!」

言葉が聞き取れる距離になったときに、突如耳に飛び込んできた、聞き覚えのある声に、ぼくは体をびくりとさせた。

「志願すると言ったのだから、じゅうぶんにその資格はありますよ。家族に会わせてやれないのは無念だが、ほかにもそういう兵は大勢いたはずだ」

相手の声は、誰だかわからないが、やけに冷静だった。

「他がどうであっても、わたしは断固反対だ!彼でなくても、乗れる人間がいるだろう」

「彼は筋がいいと言ったのは、清水さんご自身ですよ」

「それとこれとは関係ない!然るべき順序を踏めない攻撃など、見送れば済む話だ!」

「我々には時間がないんです!わかっているでしょう、今は、出せる兵器はすべて即刻出すべきときだ!」

どちらも一歩も引かないまま、押し問答が続き、ぼくは聞いてはいけないことを聞いてしまったのだということを、瞬時に理解した。

(家族に…会わせてやれない…?)

彼らが話しているのは、どう考えてもぼくのことであり、清水さんは必死にぼくの出撃を阻止しようとしているようだった。

(ちょっと待ってくれ、そんなことって、そんなことって……!)

ぼくは、彼らのやり取りを最後まで聞くことなく、扉の前から逃げるように駆け出した。