桜花舞うとき、きみを想う



それ以外の選択肢がない中、ぼくは勢いで叫んだ。

上官の強制ではないという事実を作るための志願制だから、兵がひと言『志願する』と言えば、それで成立してしまう。

『命令したのではない、彼らが命を賭して国を守りたいと名乗り出たのだ』という既成事実を作ることができるのだ。

けれどそれは、特攻の強制ではなくとも、志願の強制に他ならなかった。



退室を許されたぼくを、

「ああ、そうだ」

少佐が呼び止め、振り向いたぼくに言った。

「貴様は、飛行時間は短いが筋がいいと聞いている。必ず戦果を挙げるものと期待しているぞ」

まるで、明日の運動会がんばれよ、とでも言うかのような、軽い響きだった。

(落ち着け、落ち着け。すぐに出撃しろというわけじゃない。大丈夫だ)

激しい胸の鼓動がおさまる気配はなく、自室に戻る気になれなかったぼくは、そのまま外へ出た。

もうすぐ夜更けだが、頬で感じる風は生温く、昼間の熱の余韻を残していた。