清水さんは、ぼくを責めなかった。
それどころか、ぼくの心情を慮り、胸の内を占める罪悪感を取り除こうとしてくれた。
「非国民などと言うな。家族に会いたい、生きて帰りたいと願うのは自然なことだ。誰も責めることなどできない。それなのにきみは、あの大怪我から逃げ出さず回復に努め、今、こうして立派に訓練に励んでいるではないか」
ぼくの肩に、清水さんの大きく温かい手が置かれた。
「このご両親の息子であると同時に、今や、わたしの息子でもあるきみのことを、わたしは誇りに思うよ」
ぼくの目の前に、写真が差し出された。
こちらを見て優しく微笑む父と母の顔は、涙で滲んでほとんど見えなかったが、瞼の内に、記憶にはっきり刻まれた笑顔が浮かんだ。
両親に何ら親孝行といえることをできていないうえ、戦地でおよそ男らしくない日々を送ってきたぼくのことを、清水さんは息子とまで言ってくれる。
こんなちっぽけで臆病なぼくを誇りに思うと言ってくれたその思いに、ぼくは、自分が知っているすべての言葉を掻き集めても表現しきれない感謝の気持ちでいっぱいになった。
ありがとうございますと言いたかったが、溢れ出る涙で声にならず、ぼくは清水さんに肩を抱かれ、子供のように泣きじゃくった。
知らない人が見たら、きっと本当の父と子だと思ったのではないかと思う。
「それにしても、ひと口に軍隊といっても、いろんな経緯があるもんだなあ」
清水さんが、子供をあやすようにぼくの肩をぽんぽんと叩きながら笑うのを、ぼくは膝に顔を埋めて聞いた。


