桜花舞うとき、きみを想う



「けれど、自分の実家は本当は料亭などではないのです。父は商社で働いていて、自分も同じ仕事に就くつもりで勉強をしていました。近所に長曽野という名の料亭があって、名前が似ていることから勘違いされたのだと思います」

話し出すと、それまで抱えてきた思いが堰を切ったように溢れ出し、ぼくはもう自分を止められなくなった。

「料亭のことは、ここへ来てから同郷の永山くんに聞いて知りました。自分は当時、その存在こそ知りませんでしたが、跡取りというのが自分のことではないとわかりつつ、このまま戦地で銃を持って戦わずに済むのならと、海軍へ編入隊することを選んだのです」

清水さんは、うんともすんとも言わなかった。

どんな顔をしているのか恐ろしくて確かめることができずに、ぼくはただひたすら、目の前の地面を見つめ話し続けた。

「偽者であることを知られないよう、嘘を重ねて主計兵としての任務を続け、挙句の果てに先輩兵の口車に乗って、やってはならないことをやりました。上官は、自分ではなく先輩兵に罰を与えました」

鼻の奥に痛みを感じ、やがて涙声になったが、果たしてこのぼくが泣くことなど許されるのだろうかと自問した。

泣きたいのは、ぼくが嘘をついたせいで主計兵になりそこね、きっと戦地で汗にまみれ戦っているであろう長曽野さんであり、ぼくがきっかけでボコボコに痛めつけられた磯貝さんであるはずだ。

そして、部下を守るという熱い思いを果たすことなく海に散った宮崎さんもまた、ぼくなんかよりも、余程、生きるべき人であった。



「自分は、この世界中でいちばんの、卑怯者です」

俯いたぼくの目から、涙がひと粒落ちた。

「家族に会っても、合わせる顔などない、非国民なのです」