桜花舞うとき、きみを想う



「いい笑顔だ。きみのご家族だね」

声の主は、ぼくの隣に座った。

「教官……」

「眠れない夜は、こうして外の風に当たることにしていてね。来てみたら先客があったから驚いた」

清水さんは、訓練中には見せない表情をしていた。

「家には戻られていないのですか」

「最近はそんな悠長なことをしていられなくてね。訓練以外の時間は会議室に篭りきりだ。そんなことよりも、写真、見せてくれないか」

教官はぼくが手渡した写真をじっと眺め、

「真ん中の女性が奥さんかい。かわいらしいね」

と目を細めた。

「家族写真というのは、実にいい。いつでも撮れると思って先延ばしにしがちだが、本当はそうそう撮れるものじゃないんだ。撮れるときに撮っておかないと、後悔することになる」

「わかります。自分も、出征前に撮っておけばよかったと今更ながら思いますから」

ぼくと清水さんは、顔を見合わせて苦笑した。