桜花舞うとき、きみを想う



「酒に酔って具合が悪くなってしまって、ごめんよ。どうだった」

「どうもこうもないさ。国歌も軍歌も、何度歌ったか知れない。皆、目をギラギラさせてさ、異様な雰囲気だったよ」

そういう永山さんの目もギラギラしていたが、見ないふりをした。

「無理もない。明日の朝は空の上なんだもの」

「海の中、だろ」

永山さんは愉快そうに笑ったが、その自虐的な言葉は、ちっとも面白くなかった。

「地元の皆はどうしてるかなあ」

永山さんは夜空を見上げ、真上に腕を伸ばした。

星を掴もうとしているのか、何度も手を閉じたり開いたりしていた。

「ご家族には、全然会っていないのかい」

「会ったよ。この基地に来る前に休暇があったんだ」

「そうだったのか。いいなあ、ぼくは出征してから一度も帰っていない」

ぼくが羨むと、永山さんは星を捕まえるのをやめて、ふと真顔でぼくを見た。