「永山さん、これ」
「見ての通りだよ」
掲示されていたのは、明朝出撃する特別攻撃隊員の氏名だった。
その日のことは、訓練の内容も食事の献立も、何も覚えていない。
入浴を済ませ、部屋に戻ろうとしたとき、永山さんに呼び止められた。
「少し外に行かないか。付き合ってくれよ」
その誘いを断る理由は何もなく、ぼくは永山さんと連れ立って外へ出た。
普段この時間に兵舎を出ることがないから気づかなかったが、知らぬ間にずいぶん蒸し暑くなっていた。
「送別会で飲み過ぎてしまったかな。なんだかフラフラするよ。中園くん、どうして最後までいてくれなかったんだい」
言葉通りのおぼつかない足取りだったが、永山さんは上機嫌の様子だった。
夕食後に催された送別会は、全員に日本酒が振舞われ、初めて酒の味を知ったぼくは気分が悪くなり、永山さんたちに悪いと思いながらも途中退席してしまったのだ。