「きみは、この戦争がどうなると思う」
部屋に戻り、平静を取り戻したぼくを見るなり、清水さんが唐突に問いかけた。
つまりは勝つか負けるかを訊いていることは推測できたが、そんなことは、ぼくなんかよりも清水さんのほうが余程知っているはずで、ぼくのほうが清水さんに問うてみたいことだった。
「自分は、招集前は学問ばかりで、招集されてからはずっと軍艦で飯炊きをしていましたから、正直なところ戦局についてはさっぱりわからないのです」
ぼくの正直な意見に、清水さんは、ふうむと小さく唸り、手を顎に当てた。
「では、たとえば、このままでは近いうちに敗れるだろうと言われて、きみはそれを信じることができるか」
「敗れる……。この大日本帝国が負ける、ということですか」
ぼくがそう言うと、清水さんは笑った。
「大日本帝国、か。きみはいくらか軍人らしからぬ人物であるかと思ったが、やはり同じだな」
ぼくは、清水さんの言葉の真意と、笑われた理由がわからなかった。
たしかに招集前の生活でも、物資の不足が問題になっており、戦局が芳しくないことは想像に難くなかった。
それに、磯貝さんのように日本は負けると言う人もいたし、そもそもまだ成人に満たないぼくらが招集されたという事実が、深刻な人員不足を証明していたのだ。
けれど、やはり自分が生まれ育ったこの国が負けるなどとは、予測はできても信じたくはないものだ。


