ぼくは飛行機に酔ったのか、胸のあたりからモワモワとこみ上げるものを感じながら、清水さんの話を聞いた。
「話を聞く限りでは、きみは自分で泳いで救助を求めていたらしい。助けた本人の証言だから、わたしは間違いないと信じている」
「泳いでいた?」
そんな馬鹿なことがあるものか。
たしかにあの程度の打撲で済んだのは、ぼくが無意識であれ体勢を整えられる状態にあり、落ち方が良かったからだと考えてもいい。
けれど、だからといって落ちた直後に、あの混乱の中を泳いで救助を求めるなど、さらにはそこまでしておいて記憶がないなど、あるはずがない。
「それはたぶん、人違いと思います。自分は泳ぐのが得意ではありませんから、波が静かな海であってもそんな器用なことはできないでしょうし、ましてや……」
「だからこそ、今日、乗ってもらったんだ。さっき確かめたかったことがあると言ったのは、そのことだよ」
「え?」
飛行機に酔って気分が悪いうえ、わけのわからないことを言われて、ぼくは気が遠くなった。
「わたしは今、練習機で何度も激しい急降下を繰り返した。それでもきみが正気を保っていたことが、何よりの証拠だ。普通は初めて乗った飛行機であんなことをされれば失神するものだよ」
清水さんは、ぼくに説明をしている風だが、実際のところは、ぼくを試した結果を顧みて自らを納得させているような口調だった。
「つまりわたしは、きみがどの程度の落下速度に耐えうる体なのか、知りたかったんだ。やはり平均以上と言って良さそうだな。筋がいい」


