翌朝、起きて外を見ると、どんよりと曇っていた。
近頃、ぼくが新しいことを始める日は、決まって太陽は姿を隠す。
新婚旅行は大雨だったし、入隊の日は雪だった。
(今日は降らなきゃいいけど)
正直、雨は好きではない。
「ただでさえこんなご時勢に、ますます気が重くなるってもんだよ」
誰にともなく呟きながら、ぼくは軍服に袖を通した。
軍服は、沈没直前の巡洋艦で、衝撃を受けて転げまわったり、磯貝さんに投げ飛ばされ海で漂う災難を受けてボロ布同然になっていたが、それでも夫人によって丁寧に繕われ、清潔な匂いがした。
久しぶりの着心地に、身が引き締まり、自然と背筋が伸びた。
準備を終え玄関へ行くと、すでに清水さんが庭先に出ていた。
慌てて靴を履き、お待たせしましたと出てみれば、夫人もそこに佇んでいた。
「子どもたちは、泣いてしまいそうだからお見送りはしないなんて言うのよ。ごめんなさいね。またいつでも、顔を見せにいらしてちょうだい。あの子たちも喜ぶわ」
こうしてぼくは、夫人の言葉を胸に、清水家を後にした。


