桜花舞うとき、きみを想う



その後の3日間、ぼくらは、ぼくが家を出る話などなかったかのように、今まで通り過ごした。

素子さんは決まった時間に勤労奉仕へ出掛け、ぼくとカズは手を繋いで庭を散歩した。

午後には体力強化のために屋敷周りを走り、それが終わると夫人が用意してくれるおやつをカズと一緒に食べる。

そんな平和な日々は、あっという間に過ぎていった。



日曜日の夜、荷物をまとめるといっても、身ひとつでこの家にやって来たぼくには、あの日着ていた軍服くらいしか持って行くべきものがなく、発つ準備はものの数分で終わってしまった。

他にやることもないので居間に行くと、すでに風呂も終えて寝巻きを着た清水一家が揃っていた。

いつもは寝ている時間であるはずのカズも、起きて待っていてくれた。

部屋はしんと静まり返っていて、まるで今生の別れなのかと思うほど、神妙な空気に満ちていた。

苦手な雰囲気だと思ったけれど、一方で、今夜で清水家での生活が終わると思うと、皆と同じように感傷的になる自分もいた。

一家の視線を一身に浴びたぼくは、軽く会釈をして、隅に置かれている、ぼくがいつも使っていた座布団に座った。

(明日からは、もうこの座布団は必要ないのだ)

そんな小さなことが、ぼくを切なくさせた。