家に戻るなり、素子さんは夫人に詰め寄った。
「わたしでも聞かされていなかったことを、どうしてカズちゃんが知っているの。わたしにだけ黙ってるなんて、ひどい」
夫人は大層困った顔をして、
「この子に言ったわけじゃないのよ。お父さまとわたしが話しているのが聞こえてしまったんでしょう」
と娘を宥めた。
「だけど来週復帰だなんてまだ早いわ。もっと体力つけてからでなきゃ無理よ」
「まだ正式に決まったわけじゃないのよ。少し落ち着きなさい、素子」
「お父さまは言ったことは絶対って人よ。来週と言ったら来週の月曜日に決まってる。今日は木曜日だもの。あと1週間もないじゃない」
ぼくの身を案じてくれる素子さんの気持ちはありがたかったが、姉の興奮ぶりに驚いたカズが涙目になっているのを見て、これはいけないとぼくも口を挟んだ。
「素子さん、日程のことは今夜にでも聞くことになってるんだ。ぼくのことなら、体力も戻っているし、何も心配ないから、そう怒らないで」
ところが、素子さんを落ち着かせるどころか、逆に、
「礼二さんも礼二さんだわ。あなた自身のことなのに、直前になるまで何の準備もしない上に、そんな話があったことを報告もしてくれないなんて、本当に呑気な人なのね」
と叱られる始末で、返す言葉もなかった。


