桜花舞うとき、きみを想う



振り向くと、清水家の門の前で、カズが大きく手を振っていた。

ぼくも素子さんも、同じように振り返すと、カズは嬉しそうにこちらへ駆け寄って来た。

「姉ちゃん、『ごほうし』サボって礼ちゃんと遊んだりしてずるいや」

するりとぼくらの間に入り込み、ぼくの手を握ったカズは、膨れっ面をしてみせた。

「あら、ご奉仕だって体が健康でなくちゃ出来ないのよ。仲間内で交代でお休みを取ることも大事だわ」

「その通りだよ、カズ。姉さんはサボったわけじゃない」

ぼくが素子さんの肩を持つと、カズはますます唇を尖らせた。

それでもぼくの手だけはしっかりと握ったままで、ぼくは反対側の手でカズのくりくり頭を撫でてやった。

「誘わなくて悪かったよ。だってカズ、居間でおやつ食べていたろ。邪魔しちゃいけないと思ってさ」

「だからって、礼ちゃん来週には兵隊さんに戻るんだろ。礼ちゃんが忙しくなる前にもっと遊びたいんだ」

カズの言葉に、すかさず素子さんが反応した。

「カズちゃん、知っていたの」

カズは頷くと、ぼくの腰に両腕を回して、甘えるようにしがみついた。