その日の朝も、素子さんは勤労奉仕へ出て行った。
カズはまだ寝ていたので、ぼくはひとり、いつものように庭で散歩をしようと靴を履いていた。
そのとき、
「中園くん、少しいいか」
野太い声に振り向くと、真後ろに一家の主が和服姿で立っていた。
いつもならとっくに基地に向かっている時間だから、いないものと思っていたぼくは、驚いた。
「はいっ」
靴紐を結びかけのまま勢い良く立ち上がり、清水さんのほうへ向き直った。
話しかけられるなどあまりに珍しかったせいで緊張した。
「何か御用でしょうか」
「散歩の邪魔をして悪いが、少し話をさせてくれ」
清水さんは端的にそう言うと、草履をつっかけ、外へ出た。
ぼくは慌てて靴紐を結び、後を追った。


