桜花舞うとき、きみを想う



磯貝さんは、ぼくが気を失う寸前で体を揺すったり力を緩めたりして、その度に顔を歪めるぼくを見て楽しんでいるようだった。

このときすでに巡洋艦は沈没を免れない被害を受けており、兵たちは皆、反撃をやめて退避することに必死だったが、ぼくはそんなことを知る由もなかった。

(……だめ……だ……)

声を出すこともままならず、意思を伝える術を失ったぼくは、いよいよ遠のく意識の中で、薄ら笑いを浮かべる磯貝さんを見た。

「見てみろ。救命艇を降ろし始めてる。おれも乗せてもらうが、残念ながらお前は無理だな」

ぼくの喉を締めている左手を高く掲げ、

「こんなところでお別れなんて、さみしいなあ。なあに、おれの怪我のことは気にするな。大したことないさ。でも、お前がどうしても詫びたいってんなら……」

磯貝さんは叫んだ。



「死んでくれたら、それでチャラさ!」



ぼくは、突然感じた浮遊感に、目を開けた。

目の前は青く、けれどそれが空なのか海なのか、わからなかった。