桜花舞うとき、きみを想う



「いいえ、この状況の中でこんな言い合いをしている自分たちが、情けなくもありおもしろくもあり、何だかよくわからなくなってしまったのです」

ぼくの言葉に、磯貝さんの肩の力が抜けたのがわかった。

「まぁ、今はこんなことより、艦が沈まないことを祈るしかねえか」

「そうですよ」

ぼくは持っていた手拭いを磯貝さんに渡した。

「自分は烹炊所に戻ります。これで止血をして、ここが危険になったら、何とかして逃げてください」

「ああ。でもおれは急には動けないから、先にあっちのほう連れてってくれねえかな。奥に行けば、当分持つだろ」

磯貝さんは、まだ攻撃を受けていない方向を指差した。

無理して体を動かしたせいで、痛みが増しているようだった。

やっとの思いで立ち上がり、ゆっくり歩き出した。



その場所は、ほんの少し奥まった壁に囲まれた一角というだけで、攻撃音も兵たちの叫びも、不思議なくらい小さかった。

たしかにここならば、艦が沈まない限りは安全な場所といえそうだった。