磯貝さんは、ぼくの目の前にある米袋を見て、冷ややかに言った。
「米を運んでんのか」
「はい、すぐに戻らないと……何するんですか!」
ぼくが磯貝さんの横をすり抜け米を抱え上げようとしたとき、磯貝さんがぼくの襟元を掴んだ。
ギプスがはまっていない左腕は利き手ではないはずだったが、それでもその力はぼくなんかが対抗できるものではなく、ぼくは宙に浮いて、足をバタつかせた。
「離してくださいっ」
必死の抵抗もむなしく、ぼくはただがむしゃらにもがいた。
「なぁ、この船、もう終わりだよな」
もう少しで鼻と鼻がくっついてしまいそうなほど、磯貝さんの顔が間近にあった。
ガーゼの奥の磯貝さんの目は死んだ魚のように生気がなく、ぼくを見ているはずなのに、視線が合っていないように感じた。
「縁起でもないことを言わないでください。全員が一丸となって戦っているんですよ」
首根っこを掴まれたままのぼくがいくら訴えても、傍から見れば、敵に捕まった子猫のようにしか見えないのだろう。
呼吸が苦しくなった頃、ようやく磯貝さんは手を離してくれた。


