「相手がそう来るなら、こちらも容赦しない。おれの部下はおれが守る」

さっきとは違い、今度は落ち着いた口調で、宮崎さんは言った。

「たしかに今の磯貝は痛々しいが、だからといって情に流されるなよ。何度も言うが、磯貝のことは信用しちゃいけない」

ぼくが頷くと、宮崎さんは安心したような笑みを浮かべ、

「さあ、早く仕事に戻ろう」

ぼくを促し、烹炊所へと向かった。



このときぼくは、磯貝さんと自分とを、重ねていた。

ぼくは料理の経験などないのに、素直に人違いだと申し出ず、陸軍から海軍へと異例の異動をし、嘘をつき通すと決めた。

そして今度は、宮崎さんからの指示とはいえ、食料庫に忍び込んだ罪を、先輩である磯貝さんに被せた。

本当なら、ぼくの代わりにここに来たはずの人は、今もきっと陸軍で訓練に励んでいる。

本当なら、磯貝さんが処罰を受ける前に、ぼくも受けるべきだった。

そのすべてから逃げているぼくは、仲間を陥れ、過ごしやすい環境を手に入れようとした磯貝さんと、何ら変わりないではないか。