その晩は寝室に戻っても結局眠れず、一睡もしないまま朝を迎えた。

ぼくは主計科の中でもっとも新兵なので、先輩たちよりも少し早く起床し、烹炊所へ向かい掃除をした。

体は無意識に動いているが、頭の中は夜の出来事でいっぱいで、磯貝さんがこれからどうなるのか、そればかりが気になった。



「おはよう。今日も早いな」

ぼんやり手を動かしているところへ声がして、顔を上げると、出入り口に宮崎さんが立っていた。

「あ……おはようございます。あの、昨夜は……」

「昨夜?何のことだい」

宮崎さんは爽やかな笑顔で、箒を手に取り、床を掃き始めた。

主計科でいちばん偉い人なのに、こうして下っ端の雑用を手伝ってくれるところが、宮崎さんの本当の人柄を表しているのだと思う。

「昨夜、何かあったかな。おれは覚えていないが」

忘れろと言ったろ、と宮崎さんの目が訴えていた。

ぼくは黙って頷き、また拭き掃除に戻った。