桜花舞うとき、きみを想う



盗みに入る、という意識はなかった。

ただ、ラムネやカルピスという馴染みのある名前に触発され、出征前の生活を恋しく思うあまり、きみとの思い出のカルミンを手に取りたくなったのだ。

けれど、手に取るということは、つまり盗むということであり、ぼくはそこまで考えが及ばず、衝動的に食料保管庫に忍び込んでしまった自分に驚くと同時にあきれ果てた。

押し黙ったままのぼくに、宮崎さんは続けた。

「おまえ、まさか海軍のしごきを知らないわけではないだろう」

ぼくの心臓が、どくんと大きく打った。

「来い」

なおも黙っているぼくの腕を取った宮崎さんは、足早に保管庫を出て、ぼくを滅多に人が通らない通路へ連れて行った。

「主計長、申し訳ありませんでした。もうしませんから、どうか」

ものすごい速さで歩く宮崎さんに引っ張られながら、ぼくは何とか弁解の余地を求めようとしたが、無駄だった。

「しゃべるな、黙ってついて来い」

宮崎さんの力が強くなり、ぼくは腕の痛さと、これから起こるであろうしごきへの恐怖で、全身から血の気が引くのを感じた。

今更ながら、軽はずみに保管庫に忍び込んだことを猛烈に後悔した。