桜花舞うとき、きみを想う



「誰かいるのか」



ぼくは思わず、2段に積まれた大きめの木箱の後ろに身を隠し、息を殺した。

聞き覚えのない声だった。

出て行くか、このまま隠れてやり過ごすか迷ったが、やはり隠れているところを見つかり不審がられるよりは、自ら出ていったほうがいいと思った。

(落ち着け、大丈夫だ。堂々と立って説明するんだ)

何食わぬ顔で立ち上がり、さっき考えた言い訳を述べればいいのだ。

しかし頭ではそう考えていても、体が言うことをきかない。

手の平は冷や汗でびっしょり濡れていた。



「誰かいるのか。出て来い!」

再び声がして、続いてこつこつと足音が近づいた。

ほんの僅かの判断の遅れで出ていく機会を失ったぼくは、見つかりませんようにと祈るほかなかった。