桜花舞うとき、きみを想う



重い扉を押して中に入ると、ひんやりとした空気がぼくを取り巻いた。

真っ暗で、何も見えなかった。

(明かりをつけても大丈夫だろうか……)

夜食も終わったこの時間、食料保管庫の前を通る人はまずない。

仮に通ったとしても、この分厚い扉から漏れる僅かな光に誰かが気付くこともあるまい。

(見つかったとしても、ぼくは主計科の人間だ。食料の点検に来たと言えば問題ないだろう)

ぼくは誰にでもなく言い訳をすると、保管庫の電源を入れた。

室内が明るくなり、そこにはいつも食料を取りに来ているときと同じ光景があった。

配属されてまだ数日とはいえ、毎日調達のために来ていることもあり、だいたいの配置はわかっていた。

もしも菓子類がここにあるとすれば、置き場所は、普段ぼくが行かない右奥に違いない。

ぼくは素早く狙った場所に移動し、それと思しき箱を開けようとした。

そのときだった。

入り口の扉を開ける、鈍い音が微かに聞こえた。