桜花舞うとき、きみを想う



磯貝さんは、得意げな口調でさらに続けた。

「カルピスのことはな、一部の兵隊しか知らないんだ。他の軍艦で、カルピス欲しさに無理やり体調不良を訴える奴が続出したって話で、だからここではそんな連中が出ないよう、最低限の人間にしか知らされないことになってる」

「磯貝さんは、なぜご存知なのですか」

「そりゃあおまえ、俺たちがいるのは主計科だぞ。主計兵は、このラムネ製造機はもちろん、カルピスの管理だって任されてんだ。ほかにも菓子とか意外とあるんだぜ」

「菓子、ですか」

「船に乗ってると、潮風で喉が渇いて、甘いもん食いたくなるだろ。だからたまに配布される菓子は人気なんだ」

「どこに保管されているのですか」

「それはまだ教えられねえなぁ」

磯貝さんが意地の悪い笑みを浮かべた。

「なぜですか。自分も主計兵ですから、知っておくべきではないかと思います」

「仕事も一人前にこなせない奴に、貴重な菓子のありかなんて教えられねえに決まってるだろ。野菜の管理でもしてろ」

鼻で笑いながらそう言った磯貝さんは、再び烹炊所へ戻ろうというとき、ぼくのほうを振り向いて、さらに付け加えた。

「俺なんかは新人だった頃、夜中に忍び込んで探し回ったもんさ。あ、でも、中園は真似するなよ」