宮崎主計長が、配属初日にぼくに言った、磯貝に気をつけろのひと言が、ぼくの頭の中にはずっとあった。
けれどあれから数日経っても、磯貝さんに変わった様子はなかった。
「考えてみれば、中園はほとんど艦内のことを知らないんじゃないか。いい機会だから、ちょっといい所に連れていってやろう」
あるとき磯貝さんは、朝食と昼食の合間を狙って、ぼくを烹炊所の外へ連れ出してくれた。
「ここ、入ったことあるかい」
そこは配属初日に、歓迎会で使用した食卓を運び込んだ部屋だった。
けれどあの日は電気もつけずに、月明かりを頼りに動いていたから、中に入るのは初めてと言っていいだろう。
「絶対、びっくりするぜ」
磯貝さんが扉を開けたとき、ぼくは彼の予言どおり、驚きのあまりとっさに言葉が出てこなかった。
部屋の空気が外に流れ出た瞬間、食卓を運んだ日には気付かなかった、甘い匂いがぼくの鼻をくすぐった。
「なん……ですか、これは」
目を丸くしたぼくを見ながら、磯貝さんが自慢げに教えてくれた。
「ラムネ製造機さ」