桜花舞うとき、きみを想う



「どうしたんだ。まさか夜の海が怖いとでも言うんじゃあるまい」

宮崎さんは冗談めかして笑っていたが、ぼくの心情はそれに近いものがあったかもしれない。

「あの、船は今、動いているのでしょうか」

「え?」

「この軍艦は、どこかへ向かっているのでしょうか」

宮崎さんの目は、ぼくの言葉に一瞬戸惑いの色を見せたが、すぐにぼくが言いたいことを理解してくれたようだった。

「なんだ、気付いてなかったのか。夕飯準備中に艦内放送かかったろ。沖縄に向かってるんだ」

「沖縄?」

そのときぼくは、ぼくをここへ連れて来てくれた村井少尉の言葉を思い出した。



『実はね、もうすぐ軍艦で沖縄方面へ行くことになったんだ』



覚悟を決めたはずのぼくの心に、もう後戻りができなくなった現実が、今更になって恐怖という感情に形を変えて重くのしかかった。