桜花舞うとき、きみを想う



賑やかな宴は1時間も続かず、ぼくはあっという間に片付けに追われ、他の先輩兵たちは夜食の準備に取り掛かった。

ときどき襲うめまいがおさまらず、疲れきった体で重い食卓を元の場所に置いたとき、

「それ、隣の部屋に持って行ってくれないか」

と後ろから声を掛けられた。

振り向くと、声の主は、宮崎という主計長だった。

40代だという宮崎さんは、日本人離れした体格の持ち主で、背が高くて顔が小さく、足が長い。

軍服も華麗に着こなし、同性のぼくでも思わず見惚れてしまうほどの容姿だが、くたくたに疲れていたそのときのぼくには、たいして魅力的でもなかった。

(だったら先に言ってくれればよかったのに)

疲労からくる苛立ちを隠しつつ、ぼくが再び食卓を抱えなおそうとすると、宮崎さんが反対側にまわり、食卓に手を掛けた。

「宮崎主計長、自分がひとりでやれますから、お任せください」

「いいんだ。夜食作りはたいして人数がいらないから、居場所がなくてね。それに、これだけの机をきみがひとりで運ぶのは無理だろう」

宮崎さんは苦笑いを浮かべ、ぼくの後ろに並ぶ数台の卓を見て肩をすくめた。

ぼくは宮崎さんに礼を述べ、ふたりで卓の両端を持ち、烹炊所を出た。