桜花舞うとき、きみを想う



烹炊所といわれる厨房は、時間帯に関係なく常に慌しく、烹炊所内の主計兵、いわゆる飯炊き全員と挨拶を交わし終えたのは、夕食の後片付けが終わってからのことだった。

それも、磯貝さんに連れ回されたと言っても過言ではない強行的な挨拶で、忙しなく動く人を捕まえて無理矢理自己紹介をするという形で、ほとんどが迷惑そうな顔をした。

「こんなご挨拶でいいんでしょうか。皆さん、気を悪くされていませんか」

全員といったが、そもそも数十人もいる全ての人たちに挨拶できたのかさえ疑問だった。

「俺のときもこうだったよ。強引に行かなくちゃ時間なんて取ってもらえないしな。大丈夫、こう見えて皆いい人ばかりだよ」

磯貝さんは額の汗を拭いながら、ぼくの心配を笑い飛ばした。

(いい人ばかり、か。そうとも思えないけど)

現に、ぼくの挨拶をあからさまに邪魔だと言わんばかりの態度で無視した人もいた。

それに磯貝さん自身が、芋の皮剥きをしている最中に何度も、

『手を休めると鉄拳が飛んでくる』

と言っていたのだ。

忙しいときに新入りの相手などしていられない気持ちもわかるが、そんな姿を見せられて、いい人だと言われても俄かには信じがたい。

けれどそんなぼくの疑心は、すぐに打ち消された。