桜花舞うとき、きみを想う



口からでまかせだったわりには、うまくごまかせたと思った。

学業に励みながらの修行で、料理は初心者同然。

偽の経歴ではあるが、これを信じてもらえれば、手つきが危なっかしいのにも説明がつく。



そしてなにより、あの訓練に戻らずに済む。



正直なところ、それこそが、ぼくに人を欺かせる決心をさせた。

一旦ついてしまった嘘は死に物狂いで貫き通さねばならないし、それに伴う重圧は尋常ではないが、人殺しの訓練をする日々よりはいくらかましだと感じた。

ぼくは、つい数分前、誤解したままの村井少尉の後を追い、真実を告げなくてよかったと思った。

「それにしてもさ、でかい声じゃ言えねぇけど、跡継ぎまで招集かけるなんて、親御さん悲しんだろ」

「ええ、まあ。でもお国のためですから」



その日からぼくは、綿花商社のいち社員の息子ではなく、名もない料亭の跡継ぎになった。