桜花舞うとき、きみを想う



男は名前を磯貝といって、年はぼくより5つ上だった。

「磯貝さんは、どこかで調理人をされておられたのですか」

「調理人ってほどでもないけど、横浜にある家の食堂を手伝ってた。そのあと主計学校を出て、ここに来る前は別の巡洋艦で同じようなことしてたんだ。だから芋剥きみたいな下処理は得意だぜ。あ、手は休めるなよ。殴られるからな」

そう言う間にも、磯貝さんは大きな手を細かく動かし、次々と芋を裸にしていった。

「あんた、中園だっけ。跡継ぎって、どんなことすんの」

ぼくの心臓の鼓動が一回り大きくなった。



「大学に通いながらの修行だったので、村井少尉は腕を振るっていたと紹介くださいましたが、まだ駆け出しです。基本を教わっていた矢先の召集でしたから」



「大学生か。召集されてるってことは最低でもそのくらいだろうが、もっと若く見えるなぁ。ま、そういうことなら俺がちゃんと指導してやるから心配するな」

磯貝さんは、ぼくのおぼつかない手つきを見ても疑うことなく、でこぼこした芋を綺麗に剥くコツを伝授してくれた。

「しかし珍しいよ。普通は俺みたいに主計学校を出たり、海軍の経理学校を卒業した奴が配属されるもんなのに、おまえ、新兵教育受けてたんだろ。そんな異動、聞いたことねぇや」

ぼくは気が気でなく、空笑いを返した。