桜花舞うとき、きみを想う



ぼくは生まれてこのかた、料理なんてやったことがない。

調味料の名前も、火の加減も、野菜の切り方もわからない。

当然、芋の皮の剥き方も。



「おい、ちゃんと芽は取れよ。基本だろ」

「はい、え、芽ですか」

やけに体格の良い、到底料理人には見えない男が、ぼくの手からひょいと芋を取り上げた。

どうするのか見ていると、包丁の刃元を器用に使って、芽といわれた部分を取り除いていた。

(なるほど、こうするのか)

「料亭の跡継ぎってんなら、こんな下っ端みたいなこと嫌だろうけどさ、ここじゃ関係ねえから。小さい芽でも、めんどくさがってたら鉄拳飛んでくるぞ」

「はい。すいません」

屈強そうな見た目からは想像できない繊細な手つきで剥かれた芋を受け取ったぼくは、素直に頭を下げた。

すると男は、にかっと歯を見せて笑った。