ぼくはその後、すぐに村井少尉と共に兵舎を去ることになった。
僅かの期間ではあったが、寝食を共にした仲間に別れを告げると、皆、申し合わせたように、
「軍艦か。海に散るのも悪くはないな」
と、汗にまみれた顔で笑った。
口が裂けても『死ぬつもりはない』とは言えないなと思っていると、中には後を追って来て、
「調理人とはうまい逃げ口があったものだな。羨ましいよ。せいぜいうまい料理でも作りながら、ぼくの無事を祈ってくれたまえ」
などと、耳打ちをする者もいた。
どうやら本心ではぼくと同じ気持ちを抱いている新兵が少なからずいるようで、ぼくは久しぶりに人間らしい人間に会ったような気がして嬉しくなった。
挨拶を済ませたぼくが少尉の元へ行くと、少尉は荷物を肩に担ぎ、
「さあ、行こうか」
と、門へと向かった。
兵舎の敷地を出るとき、仲間たちが皆で手を振って見送ってくれた。
このときの面々は、ほとんどが本土勤務で終戦まで生き残ったと聞いている。


