駅は思いのほか閑散としていて、その光景もまた、出征の若者と見送りの団体でごった返していた兄のときとは様変わりしていた。
「この列車に乗ったら、前線に出たと同じと思え。決して何事にも油断せず、鍛練を積んで、自分の役割に全力で取り組みなさい」
ぼくの両肩に乗せられた父の手に力がこもり、ぼくはその言葉に力強く頷いた。
「きちんと食べて、体力つけるのよ。たまには手紙も書いてちょうだい」
母は涙目で、それでも決して泣くまいと堪えている様子がかえって悲しげに見えた。
ぼくは母の手を包むように握って、笑ってみせた。
「こちらのことは心配せずわたしたちに任せなさい。大きな声では言えないが、帰ってくる日を待っているよ」
義父はやさしい目でぼくを見つめ、義母は母のように涙を堪え、傍らのきみの肩を抱いていた。
ぼくは視線をきみに移し、
「アヤ子」
と、静かに一度だけ名前を呼んだ。
こんなとき、ぼくは愛する人にどんな言葉をかければよかったのだろう。
ぼくの呼びかけに涙で答えるきみの前で、ぼくは言葉が出なかった。


