出征の見送りは、一時に比べるとずいぶん質素で形式的なものとなっていた。
兄の出征時には、区長をはじめ、地域の青年団や婦人会、近所の人々が一堂に会し、盛大に日の丸を振り【出征兵士を送る歌】を歌って送り出したものだ。
けれどこの日は、区長こそ来てくれたものの、他には近所の顔見知りの人が数人と、親友の広田が来てくれたに留まった。
その顔ぶれの中には、先日ご子息が戦死された三谷さんの姿もあり、ぼくは三谷さんがどんな心境でいるかを思うと、目を合わせることができなかった。
「中園礼二くんはめでたく出征の命を受け、御国のため、心身尽くし戦ってくれるものと……―」
区長のどことなく時勢にそぐわないと思わせる激励の挨拶が終わると、ぼくは見送りの面々の正面に直立した。
「不肖中園礼二、このたび名誉の召集令状を受け、入隊いたします。入隊のあかつきには、天皇陛下に一命を捧げる覚悟で戦地にて戦って参ります」
これは、ぼく自身が考えた文言ではなく、出征する者の決まり文句のようなものだった。
死んだ兄も三谷家の寛さんも、ここで同じように挨拶をして、そして帰って来なかった。
ぼくは前を見据えて挨拶を述べながら、そんなことを考えていた。


