桜花舞うとき、きみを想う



神社の石段の下までやって来ると、先頭を歩いていた父が立ち止まり、ぼくに振り向いた。

「礼二」

険しい表情を見せる父に、ぼくだけでなく、その場にいた全員が背筋を伸ばした。

「お前は次男だが、幸一が死んだ今となっては長男と思っている。中園家を背負う者として、恥じない働きをして来なさい」

「はい」

「お前が守るべきものは、国であり、家であり、家族であり、それはすべて、妻のアヤ子に繋がっている。それを覚えておくこと」

「はい」

「留守はわたしが必ず守るから、何も心配することはない。上の人の言うことをよく聞いて、しっかり励みなさい」

父は最後に少し笑みを見せ、ぼくはそれに威勢の良い返事と精一杯の笑顔で応えた。

母と義母は目を赤くし、きみは顔を手拭いで覆っていた。

「アヤ子、泣くなよ。ぼくはもう今から、きみとエノケンを見に行く日のことを考えているよ」

ぼくはそう言って、きみにまだ封を切っていないカルミンを渡した。

物資不足で手に入りにくくなったぼくらの思い出の菓子を、きみは涙が入り混じったくしゃくしゃの笑顔で受け取った。