桜花舞うとき、きみを想う



暗闇の中、かすかに部屋に差し込む月明かりに、きみの目元が光った。

ぼくは親指でそれをそっと拭うと、きみの額に接吻をした。

「明日はもう準備が忙しくて、外出もできないわね」

「準備といったって、たいしてすることもないけど。でもまあ、のんびり映画を見ている余裕はないかもしれないな」

「本当にごめんなさい」

「もういいんだ。ぼくのほうこそ、こんなときに悲しい思いをさせて済まなかった」

頭をそっと抱き寄せると、きみはぼくの背中に腕を回した。



「行かないで、なんて言っちゃいけないわね」

その声には、どこか諦めの色が含まれていて、ぼくは妙にさみしくなった。

だからといって、そう言われたいわけではない。

言われたら最後、ぼくの覚悟は一瞬にして吹き飛んでしまうだろうから。

ぼくがきみを抱き締めると、きみはきつく、ぼくの背中に爪を立てた。