桜花舞うとき、きみを想う



2日後の朝、ぼくは出発する。

これまで大した喧嘩らしい喧嘩などしたことがなかったというのに、ここへ来てこのざまだ。

結局この日もぼくらは口をきくことなく、夕食を終えた。

きみは母や父と当たり障りのない会話を交わし、その間ぼくは仏頂面で飯をかきこんだ。

こんなに息苦しい食事をしたことが、今までにあったろうか。

ただでさえ窮屈な毎日が、さらに窮屈だ。



「礼二さん、もう寝た?」

その日の夜、寝床についてしばらく経った頃、きみの細い声がぼくを呼んだ。

「起きてるよ」

しんと静まり返った部屋で、きみが動く衣擦れの音がした。

きみに背を向けて寝ていたぼくの背中にかすかな風を感じ、きみがぼくの布団に潜り込んだのだとわかった。

すぐにきみの体温がぼくの背中を温めた。