桜花舞うとき、きみを想う



すっかり外出する気が失せたぼくは、きみを置いて居間に引き返した。

さっきまで、うたた寝のきみを見てあんなに幸せだった自分が嘘のように、心が重い。

そんなぼくの様子を見た母が、

「いやぁね。小言から逃げたと思ったら、辛気臭い顔して戻って来たりして」

と苦笑いを浮かべた。



明るいことを言えば呑気と怒られ、暗い顔をすれば辛気臭いと煙たがられ。

(まったく、一体どうすればいいのやら)



ぼくは返事の代わりに軽いため息をこぼし、母に背中を向けて寝転がった。

畳はひんやりしていて一気に体が冷えたが、起き上がる気にはなれなかった。

(アヤ子が悪いんだ、せっかくの誘いに水を差すようなことを言うから)

ぼくはそう思うことで、自分の勝手さから目を背けた。