桜花舞うとき、きみを想う



軍事工場を狙った度重なる空襲のことを気にしていないわけではなかった。

そのうち工場だけでなく、市街地に攻撃があるかもしれないこともわかっていた。

だけど、だからといって毎日怯えて家の中に閉じこもって過ごすのはごめんだ。

逃げ隠れすればするほど劣勢になっていく気がして、無性に悔しいという気持ちが、ぼくの中にあった。



そう、ぼくの中にもあったんだ、愛国心が。



「無闇に外出することが危険だってことはわかってる。ぼくだって怖くないと言ったら嘘になるよ。だけどこのまま出征したら、それこそ後悔することになるんだ」

泣き虫なきみは涙目になって、今にも声をあげて泣き出しそうな顔をしていた。

ぼくは構わず続けた。

「このまま静まり返った家でじっとしてその日を待つなんてできない。笑いたいんだ。どんなことでもいいから、笑いたい」

話すうち、だんだんぼくの目頭が熱くなってきて、やがて視界が滲んだ。

ぼやけたきみの頬に、涙がひと筋、伝うのを見た。