そんなきみだったけれど、その澄んだ瞳の奥には、やはり悲しい色が宿っていた。
「ごめんなさい。いつまでも嘆いてちゃいけないってわかってるんだけど」
「いいんだ。でもぼくは来週、ここを発つ。そのときは頼むから、笑って見送ってくれよな」
そう言うと、きみは涙ぐんだ。
このままでは、また暗い雰囲気になるのが目に見えて、それに耐えかねたぼくは、
「なぁ、今からエノケンの映画でも見に行かないか」
と、わざと明るい声できみを誘った。
「今から?」
「ああ。天晴れ一心太助が始まったろ。見たいんだ」
ぼくの提案に、きみは少し考えるそぶりを見せた。
「でも、出歩いたりして平気かしら」
きみは、最近頻繁になった空襲を心配しているようだった。


