「あら、まあ、永山さん。寒い中ご苦労さま」
「どうもご無沙汰しています」
永山さんは、自転車を家の塀の前に立てかけて、母に礼儀正しく頭を下げた。
そして斜め掛けにしている鞄に手を突っ込むと、慌しく、
「今日はお届けものがありまして」
と、役場からの通知書の束を取り出し、扇状に広げて小さな目をキョロキョロさせた。
うち宛ての通知を探しているようだった。
母もぼくも、そしてきみも、黙ってその様子を見ているばかりで、その場の空気の緊張が増した。
そのうち母が痺れを切らして、
「寒いけども、いいお天気ねぇ」
などと、どうでもいい世間話を始めた矢先、
「そうですね、あ、これです」
と、永山さんが手を止めた。


