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** 戒Side **
「お邪魔いたしました」
彩芽と名乗った女が立ち去ろうとしていた。
きっちり腰を折り、頭を下げる姿勢はまるでマナー講座のお手本のようにきれいだった。
完成されたその仕草が、逆にどこかつくりものっぽくも感じる。
何もんなんだ?
「俺、送りますよ!」
マサさんが真っ赤になって慌てて言う。
どうやら彩芽さんはマサさんのツボに入ったらしい。
「いいえ、大丈夫です。この近くですので。お気遣いありがとうございます」
マサさんの申し出も、彩芽さんはやんわりと断り、
「それじゃ朔羅ちゃん、またね」
と同じように玄関まで見送りにきていた朔羅に手を振る。素振りにそつがなく優雅だった。
「あ!はい!!今日はありがとうございました!」
朔羅が律儀に頭を下げ、彩芽さんは玄関の向こう側へ消えていく。
その扉の向こうを、あの女の気持ちを、透視できればいいのに―――
そんな想いで扉の方を見ていると、同じように朔羅もぼんやりと玄関の向こうへ視線を投げかけていることに気付いた。
俺が朔羅の横顔をちらりと見ると、俺の視線に気付いたのか朔羅が慌てて視線を逸らす。
「リコ!部屋に行こっ」
逃げるように慌てて川上の手を取る朔羅。
避けられてる―――って言う自覚はあった。
やっぱあの花火大会の夜からだよな。
はぁ~
俺、「知りたくない」とか言っちまったし、
あいつと琢磨さんの間に何かあったのは分かりきっていたのに、あいつの話をちゃんと聞いてやれなかった。
こんな俺
嫌われてもしょうがないよな。