□ ■ スネークと白へび ■ □
東京郊外に位置する―――ここは開発都市。
…だった筈だが、予算の関係で開発途中のまま工事は途絶え、
中途半端に出来上がった高速道路や都市ビルが出来損ないのミニチュアドールハウスのように並んでいる。
「まるで死の都市だな」
“青龍”の墓場としては、申し分ないが。
男は―――この都市計画が成功すれば、さぞや立派になるだろう展望台の、
灰色の建物の屋上で一人、
黒いコートのポケットに手を突っ込みながら、下界を眺めて皮肉そうに口元を曲げた。
「ヤクザだって税金払ってるんだから。お国もしっかりしてくれないとね」
夏の夜。日はすっかり暮れたのに、アスファルトが昼間の太陽の名残を残してじっとりとした熱気を含んでいた。
空はぬるりとした空気で覆われ、お世辞にも居心地がいいとは言えなかったが、汗一つ掻いていない涼しい表情で
男―――“スネーク”は待ち人が来るのを、その地面にあぐらを搔いて待つことにした。
くわえタバコをしながら腕のデジタル時計をちらりと見る。
時刻は22時45分45秒を切った。
「あと15秒。“あの男”は約束通り来るかねぇ」
のんびりと一言漏らしたそのときだった。
ふわり
風が一つの気配を運んできて、ゆっくりと顔を上げると、
白いパンツに白いジャケットと言う全体的に白っぽい雰囲気の
スラリと背が高い男が目の前に立っていた。
その白い衣装に、無造作にセットした黒い髪と、切れ長の黒い瞳がより際立って映えていた。
“白”
そのカラーは、コードネームを誇示するようにわざと選んだに違いない。
「遅かったね。あと15秒経ったら帰るところだった」
スネークが笑うと、その男も調子を合わせて笑った。
「君は相変わらずだな」
「一本どうだい?」
スネークは男にタバコの箱を向けると、男はそれをやんわりと断った。
スネークが少しだけきょとんとして赤い眼をゆっくりとしばたかせる。
「やめたんだ」
『ヘビースモーカーだった君が何故?』
スネークにそう聞かれそうでまた、その質問に答えたくなかった男は
「いや、貰うよ」そう訂正して一本タバコを引き抜いた。